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CONCERT

シャネル・ピグマリオン・デイズ
室内楽シリーズ

2017.6.3 SAT - 6.7 WED

INTRODUCTION

シャネルの創始者であるガブリエル シャネルは「ピグマリオンだった」といわれており、無名時代のパブロ ピカソ、イーゴリ ストラヴィンスキー、ジャン コクトーらを支援しました。
シャネル・ネクサス・ホールでは、そのスピリットを受け継ぎ、2005年から若手アーティストに発表の機会を提供する音楽プログラム、「シャネル・ピグマリオン・デイズ」を開催しています。
演奏家の更なる成長に、室内楽を学ぶことがとても重要であること、また、聴き手の皆様にも、室内楽が音楽の楽しみの幅を広げてくれるものであることを感じ、シャネル・ピグマリオン・デイズ 室内楽シリーズを開催しています。ピグマリオン・デイズで経験を重ねてきたアーティストたちが、さまざまな国籍・世代の、才能あふれる演奏家たちと共に、室内楽の楽曲に取り組んでまいります。互いを高め合いながら、創りあげられていく魅力あふれる演奏の数々を、どうぞお楽しみください。

SCHEDULE

View Program ▼

6JUN

7 WED

18:00 開場 / 18:30 開演
ドホナーニ: ピアノ五重奏曲 第1番 ハ短調 作品1
酒井 有彩(ピアノ)
金川 真弓(ヴァイオリン)
矢野 玲子(ヴァイオリン)
大山 平一郎(ヴィオラ)
スティーヴン オートン(チェロ)

ショスタコーヴィチ: ピアノ五重奏曲 ト短調 作品57
ウェンディ チェン(ピアノ)
ジェニファー しづか フラウチ(ヴァイオリン)
矢野 玲子(ヴァイオリン)
有田 朋央(ヴィオラ)
スティーヴン オートン(チェロ)

6 TUE

18:00 開場 / 18:30 開演
マーラー: ピアノ四重奏断章 イ短調
ウェンディ チェン(ピアノ)
金川 真弓(ヴァイオリン)
大山 平一郎(ヴィオラ)
加藤 文枝(チェロ)

ピアソラ: ル・グラン・タンゴ
矢野 玲子(ヴァイオリン)
ウェンディ チェン(ピアノ)

ヴェーベルン: 弦楽四重奏のための《緩徐楽章》
矢野 玲子(ヴァイオリン)
金川 真弓(ヴァイオリン)
大山 平一郎(ヴィオラ)
辻本 玲(チェロ)

シェーンベルク: 浄夜, Op.4
ジェニファー しづか フラウチ(ヴァイオリン)
ポール ホアン(ヴァイオリン)
有田 朋央(ヴィオラ)
大山 平一郎(ヴィオラ)
辻本 玲(チェロ)
スティーヴン オートン(チェロ)

5 MON

18:00 開場 / 18:30 開演
ブラームス: 弦楽六重奏曲 第2番ト長調 Op.36
ポール ホアン(ヴァイオリン)
金川 真弓(ヴァイオリン)
有田 朋央(ヴィオラ)
大山 平一郎(ヴィオラ)
加藤 文枝(チェロ)
スティーヴン オートン(チェロ)

メンデルスゾーン: 弦楽八重奏曲 変ホ長調 Op.20
ジェニファー しづか フラウチ(ヴァイオリン)
矢野 玲子(ヴァイオリン)
金川 真弓(ヴァイオリン)
ポール ホワン(ヴァイオリン)
有田 朋央(ヴィオラ)
大山 平一郎(ヴィオラ)
スティーヴン オートン(チェロ)
加藤 文枝(チェロ)

4 SUN

16:30 開場 / 17:00 開演
ベートーヴェン: ピアノ三重奏曲 第3番 ハ短調 Op.1-3
酒井 有彩(ピアノ)
ポール ホアン(ヴァイオリン)
加藤 文枝(チェロ)

ベートーヴェン: 弦楽五重奏曲 ハ短調 Op.104
金川 真弓(ヴァイオリン)
矢野 玲子(ヴァイオリン)
有田 朋央(ヴィオラ)
大山 平一郎(ヴィオラ)
加藤 文枝(チェロ)

3 SAT

16:30 開場 / 17:00 開演
ポッパー: 3 つのチェロとピアノのためのレクイエム Op.66
辻本 玲(チェロ)
スティーヴン オートン(チェロ)
加藤 文枝(チェロ)
酒井 有彩(ピアノ)

ラヴェル: ヴァイオリンとチェロのためのソナタ
ポール ホアン(ヴァイオリン)
辻本 玲(チェロ)

シューベルト: ピアノ三重奏曲 第2番 変ホ長調 D929 Op.100
ウェンディ チェン(ピアノ)
ジェニファー しづか フラウチ(ヴァイオリン)
辻本 玲(チェロ)

※開場は上記開演時間の30分前となっております。
※プログラム、アーティスト及び公演日は変更となる可能性がありますこと、予めご了承ください。

REPORT

シャネル・ピグマリオン・デイズ
室内楽シリーズ 6 公演レポート

初夏の爽やかな晴天が続いた6月3日から6月7日の5日間、銀座のシャネル・ネクサス・ホールにおいて、「シャネル・ピグマリオン・デイズ 室内楽シリーズ」が開催されました。いつもはシャネル・ピグマリオン・デイズとして、5名のソリストによるリサイタルを開催しているネクサス・ホールが、年に2回、室内楽フェスティバルの空間となります。今回行われた6月のフェスティバルでは、ピグマリオン・デイズでソリストとして演奏の経験を積んできた若手演奏家に加え、多彩な経験を持つ世界で活躍するアーティストの11名が参加し、バラエティに富んだ演奏を披露しました。



綿密なリハーサルを経て、本番へ―――

世代も国籍も異なる演奏家たちが東京に集まり、本番を前に様々な組み合わせで綿密に行われるリハーサルの様子は、本番の公演にもまして興味深いものでした。昨年からの出演メンバー、ヴァイオリンのポール ホアンさん、チェロの加藤文枝さん、辻本玲さん、スティーヴン オートンさん、ピアノのウェンディ チェンさんに加え、11月のシリーズで経験を重ねてきたヴァイオリンの矢野玲子さん、そしてピアノの酒井有彩さんが登場。ヴァイオリン金山真弓さん、ヴィオラ有田朋央さんは初参加です。同じく初参加となったジェニファー しづか フラウチさんはこれまでに2度のグラミー賞ノミネートの経歴をもつスター・ヴァイオリニストです。これにアーティスティック・ディレクターの大山平一郎氏(ヴィオラ)が加わり、デュオ、トリオ、カルテット、クインテット、セクステット、オクテットの合わせが、本番の4日前から始まりました。

伸び盛りの若手奏者にとって、ベテラン奏者とのリハーサルは、本番に向けて一つの音楽を創り上げていく場であり、学びの場でもあります。室内楽シリーズのアーティステック・ディレクターである大山平一郎氏は、「私自身、若い頃にルドルフ ゼルキンのマールボロ音楽祭に招かれ、ベテラン演奏家たちと共演する貴重な機会を得ました。シャネルの室内楽シリーズで、プログラミングだけでなくプレイヤーとして共演するのは、若い演奏家に多くのことを吸収してもらいたいからです」と話します。

室内楽とは「対話」―――

6月6日ソワレ公演のためのリハーサルでは、マーラーの若き日の名作『ピアノ四重奏曲断章 イ短調』のための入念な準備が行われていました。リズムに対して妥協のないヴァイオリンの金川真弓さんが、納得がいくまで繰り返しを求めていた箇所があり、英語と日本語が交錯するディスカッションが白熱しました。室内楽とは「対話」であり、時には真剣勝負の「議論」にもなることを理解します。チェロの加藤文枝さんは、金川さんのアクティヴさに少し驚いていた様子でしたが、演奏家の本音のぶつかり合いは「よいものを作り上げるため」に必要なもので、仲違いではありません。休憩時間には2人が仲良くお茶を飲んでいる微笑ましい姿を見ることが出来ました。緻密に作り上げていったこのマーラー、本番の演奏では予想外に盛大な炎が燃え盛り、ピアノのウェンディ チェンさんの正確で華麗なタッチ、ヴィオラの大山氏の息の長い内声が、金川さん、加藤さんとともに互いのパッションを高め合い、一気にラストまで駆け抜けていきました。室内楽の「対話」とは、言葉によるやりとりであると同時に、演奏家同志の内面の熱い交流でもあると感じさせます。



アーティストそれぞれの個性が生み出す音楽―――

同日のリハーサルではシェーンベルクの『浄夜』も印象的でした。ベテランのイギリス人チェリスト、スティーヴン オートンさんが加わる曲では毎回和やかな雰囲気に包まれます。ここにフレンドリーなポール ホアンさん、小さな娘さんと微笑みを交わすジェニファー しづか フラウチさんが入ると、より平和なムードが増幅されます。通しで行われた1回目の演奏から完璧なアンサンブルで、初期のシェーンベルクのロマンティシズムが横溢し、演奏家の集中力が作り出す精密な美の世界に圧倒されました。客席にわずかなスタッフしかいないリハーサルであることが勿体ないほどで、プレイヤーの演奏能力と精神性の高さに驚愕するばかりでした。本番もリハーサルと同様の完成度で、最高の演奏には常に絶体的な「静寂」が宿っていることを感じさせます。

ヴァイオリンの矢野玲子さんはリハーサルのときから明るく快活で、ウェンディ チェンさんとのピアソラ『ル・グラン・タンゴ』では、超絶技巧的なパッセージを、自然で勢いのある感情表現として弾いていたのが見事でした。天性の「野生」の感覚も感じさせます。リハーサルや本番でも、矢野さんを見ていると演奏家のもつタフネスと楽観に驚き、元気をもらえます。室内楽のディスカッションは、ときにシリアスで学究的なものになりますが、それも含めてすべては音楽を創り出す「歓び」に通じることに気づかされる演奏でした。



ソリストとして、室内楽を経験する意義―――

6月7日の本番では、ドホナーニとショスタコーヴィチのピアノ五重奏が2曲演奏され、このリハーサルも興味深い組み合わせでした。ドホナーニのピアノ酒井有彩さんは、2015年のピグマリオン・デイズ参加アーティストとしてソロリサイタルの経験を積んだ後、2016年11月室内楽シリーズに初参加し、6月のフェスティバルには今回初登場です。「自分の音楽だけを聴いていただくソロの演奏会より、室内楽の方が緊張するんです。ソロは自分だけの責任ですけど、室内楽は全員の音楽に対する責任になりますから。ピアノの音量には特に神経を使いますし、感性だけに走らないよう曲の解釈も深めていくようにしています」と語る酒井さん。 弦のアンサンブルを背後から支えながら、楽想に独特の色彩を与え、ペダリングも繊細でセンスが光り、オルガンのような響きもタッチで調整して聴かせます。18歳のドホナーニが書いた『作品1』のピアノ五重曲が、無数のロマンティックな歌が宿る豊かな樹木のように感じられました。ヴァイオリンに金川さんと矢野さん、ヴィオラに大山氏、チェロにオートンさんというアンサンブルも、鋭さと穏やかさがブレンドする新しい色彩感でした。それぞれの色が溶け合うようで、瞬間ごとに単色の鮮やかさも浮き彫りになるのが室内楽の妙味です。



シャネル・ネクサス・ホールで行われる室内楽シリーズでは、弓と弦がきしみ合うその摩擦や、演奏家の息づかいまでを感じることが出来る、臨場感あふれる演奏を体感できます。そして、欧米で活躍する奏者や躍進目覚ましい若手、指導者級ベテランが組み合って鳴らした音色には、これまで築きあげてきたネクサス・ホールの舞台の伝統を垣間見ることができるでしょう。継承し、育てていく文化の豊かさが、銀座のビルの一角から溢れ出していて、それは未来へと繋がっていると確信できたフェスティバルでした。


取材・文: 小田島 久恵(音楽ライター)